アイアンはライ角が命

ライ角とは

ゴルフクラブのライ角とは、下の写真のように、ゴルフクラブをスコアラインが(またはソール面が)水平になるようにして地面に置いたときに、水平な地面とシャフトの中心線とが作り出す角度です。(スコアラインとソール面は基本的に平行だという前提で話を進めます。)

ゴルフクラブのライ角は、アイアンの方向性を大きく左右する数値です。あと、ウッドやユーティリティーの場合には、ほとんど無視して良い数値です。

アイアンのライ角が合っていないことによる弊害

アイアンのライ角が合っていないことの弊害は、大きく3つあります。

1つ目の弊害は、ボールがあさっての方向に飛んでしまうことです。

ライ角が合っていないことの弊害その1

上の3枚の写真では、フェースにくっついている赤い丸から、フェース面と垂直に黒い棒が伸びています。この黒い棒が指している方向がフェース面の向いている方向です。また、床面に黒い線が引いてあります。この線が指している方向が、ターゲット方向です。上の写真ではわかり難いですが、いずれの写真でも、クラブヘッドのリーディングエッジは、ターゲット方向にスクエアになるように、ヘッドが置かれています。

ライ角がフラットすぎると

左の写真(1)では、ソールのヒール側(シャフトがついている側)が浮いた状態になっています。リーディングエッジはターゲット方向とスクエアになっているにも関わらず、フェース面から伸びている黒い棒は、ターゲットの右方向(写真はターゲット方向から撮影されているので、写真で言うと左方向)を向いています。つまり、フェース面はターゲットよりも右を向いているということです。この状態でインパクトを迎えると、ボールは右に飛んでしまいます。この状態を「(適正なライ角よりも)ライ角がフラットすぎる状態」と言います。

ライ角がアップライトすぎると

右の写真(3)では、今度はトゥ側(ヘッドの先っちょ側)が浮いた状態になっています。フェース面から伸びている黒い棒は、ターゲットの左方向を向いています。この状態でインパクトを迎えると、ボールは左に飛んでしまいます。この状態を「(適正なライ角よりも)ライ角がアップライトすぎる状態」と言います。

ライ角が適正であれば

中央の写真(2)では、ソールが地面と平行であり、ヒール側もトゥ側も浮いていません。フェース面から伸びている黒い棒は、正しくターゲット方向を向いています。この状態でインパクトを迎えると、ボールは気持ちよくターゲットに向かって飛んでいきます。この状態を「ライ角が適正である」と言います。

不適正なライ角の場合、ターゲットからどれぐらいずれる?

このように、ライ角がフラットすぎたり、アップライトすぎたりしていると、ボールはターゲットと異なる、あさっての方向に飛んでしまいます。これが1つ目の弊害です。フェースの向きがどのぐらいずれるかは、次の計算式で計算できます。

フェースの向きがずれる角度

この弊害の影響は、ロフト角の大きなクラブほど顕著です。フェースの向きがずれる角度はロフト角に比例します。よって、アイアンのライ角はウッドのライ角よりも、はるかに重要であり、ショートアイアンやウェッジで最も重要です。

実際、ライ角のズレは、ボールの挙動にどれほどの影響を与えるのでしょうか。仮にロフト角48度のピッチングウェッジで、カップまで110ヤードの完璧なショットを打ったとします。運が良ければカップインするか、運が悪くても旗竿に当たるぐらい完璧なショットです。

しかし、残念なことに、このプレイヤーは、自分に合ったライ角から5度もアップライトなピッチングウェッジを使っていたとします(背の高い方や低い方であれば、十分にあり得ることです)。この時、リーディングエッジはスクエアであっても、フェース面は約2.7度左を向いてしまいます。計算上、このショットは、カップから5ヤード以上も左に着地します。

2つ目の弊害は、実質的な重心高さが高くなってしまうことです。

ゴルフクラブフェース上の重心(スイートスポットまたは芯とも言います)とは、そこでボールをヒットした時に、最も効果的にボールにエネルギーを伝達できる場所のことを言います。重心でボールをヒットしたときプレイヤーは、えもいわれぬ快感を得ることができます。

アイアンの場合、基本的に重心は低ければ低いほど、やさしいアイアンだと言うことができます。

2つ目の弊害は重心高さ

上の写真で、赤いラインは地面です。フェース上の赤い点は重心です。ライ角が適正である(2)の状態で、重心の高さは青いラインの高さです。これに対して、ライ角がフラットすぎる状態の(1)や、ライ角がアップライトすぎる状態の(3)においては、重心を示す赤い点が、青いラインよりもやや上にきています。

つまり、ライ角がアップライトすぎたり、フラットすぎたりすると、地面に対する実質的な重心は高くなってしまい、その分だけ重心でボールをヒットすることが難しくなってしまうのです。これが2つ目の弊害です。

3つ目の弊害は、アドレスが歪んでしまう可能性があることです。

ライ角は、ご自分の体格に合ったものを選ぶか、もしくはご自分の体格に合わせて調整すべきです。

適正なライ角は、プレイヤーのアドレスの手の高さで決まります。(アドレスとインパクトで、手の高さが大きく異なる方の場合にはインパクトの手の高さで決まります)。手の高さが高いプレイヤーは、ライ角がアップライトな(ライ角の数値が大きい)アイアンが適し、手の高さが低いプレイヤーは、ライ角がフラットな(ライ角の数値が小さい)アイアンが適します。

手の長さにもよりますが、一般的に、身長が高いプレイヤーは、手の高さが高い傾向にあり、身長が低いプレイヤーは、手の高さが低い傾向にあります。

3つ目の弊害はアドレスが歪んでしまう可能性

身長が高く、手の高さも高いプレイヤーが、自分に合わないフラットなライ角のアイアンを持って、その合わないライ角に無理やり身体を合わせてアドレスすると、(1)の写真のように、不自然にハンドダウンしたアドレスになってしまいます。

また、身長が低く、手の高さも低いプレイヤーが、自分に合わないアップライトなライ角のアイアンを持って、その合わないライ角に無理やり身体を合わせてアドレスすると、(3)の写真のように、不自然にハンドアップしたアドレスになってしまいます。

(2)の写真のように、自然なアドレスをとるためには、それを可能にするための、適正なライ角をもったアイアンが必要不可欠です。

アイアンのライ角の調整

さて、上記の3つの弊害を避けるために、アイアンのライ角は、自分の体格に合っていて、かつ0.5度刻みに正しく設定されていて欲しいものですが、残念ながら、市販のゴルフクラブは、必ずしもライ角の数値が0.5度刻みで正確にフローしているとは限りません。

公差が±1°

ゴルフクラブメーカーのライ角(およびロフト角)の公差(これぐらいならズレていても許してね、という誤差)は、精度の高い工場であっても±1度ぐらいなのです。0.5度刻みの設計に対して、公差が±1度ということは、番手ごとのライ角は、簡単に逆転してしまうということです。

残念ながら、運悪く、こういうアイアンに当たってしまう可能性は、少なからずあります。と言うか、市販のアイアンのライ角がカタログ値と完全に一致していたら奇跡です。

軟鉄アイアンの勧め

正確にフローしていないアイアンだったとしても、購入したアイアンのヘッドの主素材が「軟鉄」という素材であれば、救われます。「軟鉄」は比較的軟らかい金属なので、ライ角を調整することができるのです。軟鉄素材のヘッドの製造技術が向上したため、最近は市販のアイアンの3割ぐらいが、軟鉄製のアイアンです。

もし、購入したアイアンのヘッドの主素材が、「17-4ステンレス」、「SUS630ステンレス」、「チタン」、「マレージング鋼」、「クロムモリブデン鋼」などの素材であれば、残念ですが、あきらめてください。これらの素材は硬い金属なので、ライ角の調整はできません。

従いまして、アイアンを購入する際には、ヘッドの主素材が「軟鉄」であることをご確認するようお勧めします。そして、購入したら、ライ角(およびロフト角)を調整して使用することをお勧めします。

(クラブ数値.comから抜粋)